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2011年11月1日火曜日

チムシアン族のある村の姫は「カワウソの国」で妊娠して不思議にも「カワウソの子」を産んだ。姫はその子を連れて父が首長をしている村に帰った。「カワウソの子」は何匹かの大きいオヒョウ(ヒラメ科の魚)を釣ってきたので、祖父は同僚である全部族の首長を祝宴に招いた。首長は「カワウソの子」を首長たちに紹介し、その子が動物の姿で魚を取っているところに出会っても、その子を殺さないで欲しいと頼んだ。首長は皆に「これが私の孫です。この子が皆さんにさしあげた食物を取ってきたのです」と述べた。こうして、冬の飢餓の時期に「カワウソの子」が取ってくる鯨やアザラシや新鮮な魚を食べに訪れる客たちが多種多様な贈り物を持ってくるので、祖父は裕福になった。しかし彼は一人の首長を招くのを忘れていた。そこである日、忘れられた首長の部族のカヌーを漕いでいた者が海で大きいアザラシを口にくわえている「カワウソの子」に遭遇した時、これを矢で射殺し、アザラシを手に入れた。祖父と部族の人たちは「カワウソの子」を探し求め、招待を忘れられた部族のところにたどりついた。そこで彼らは「カワウソの子」が殺されたことを知った。この部族の人たちは「カワウソの子」のことを知らなかったと弁解した。「カワウソの子」の母親である姫は悲しみのあまり死んでしまった。知らずに「カワウソの子」を殺した部族の首長は、祖父である首長に償いとしてあらゆる種類の贈り物を贈った。神話は次の文章で終わっている。「こうした事情で、首長に息子が生まれ、命名するときには、これを知らない人がないよう盛大な祝宴を開く」。
ポトラッチすなわち財産の分配は、軍事、法律、経済、宗教のすべてについて「知って貰う」ための基本的行為なのである。

— マルセル・モース「三つの義務:贈与、受領、返礼」 『贈与論』

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