草も人も、どんな事物も、出来合いの仮面をもっていて、それによって執拗な詮索に応じている。私たちは通常、この仮面しか認識していない。事実、人は見られることを望まない。この世界の何ものも見られることを望まない。誰でも眼差しを感じた途端、触れられもしないのに、絵柄のカーテンを引いてしまう。こうして慎みのない人間を煙に巻いてしまうのだ。絵柄のカーテンを手にして踵を返すとき、彼は何かをつかんだと信じている。が、彼はカーテンの背後にあるもの、獣そのものについては何も見なかったし、何も疑わなかった。その獣が姿を見せようという気になり、あなたの眼の前で、あなたが見ていることを忘れて踊り出すようにしむけるには手管が必要である。そのためには、自ら踊ることも必要である。獣へ眼差しを向けていることを、自分自身忘れてしまうことも。
—ジャン・デュビュッフェ『痕跡』
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