建物とはすべての人達に気に入られなければならない。このことは、誰にも気に入られる必要もない芸術作品と相違する点である。芸術作品とは、それに対する必要性が何らなくとも、つくられ、世に送り出される。ところが建物は必要性を満たすものだ。芸術作品は誰にも責任を追う者はないのが、建物は一人一人に責任を負う。また芸術作品は、人と快適な状態から引き離そうとするが、建物は快適性をつくり出すのが務めである。芸術作品は革新的であり、建物は保守的である。芸術作品は人に新しい道をさし示し、未来を考えさせる。ところが建物は現在を考えるのである。人間は自分を快適にするものなら、なんでも好きだ。そして自分をそうした快適、安全な状態から引き離そうとするもの、邪魔しようとするものなら、なんでも憎む。このようにみてくると、人は建物、家を愛し、芸術を憎むといってもよかろう。
かくして、建築と芸術はなんら関係がないのではあるまいか、そして建築を芸術のいちジャンルに加えることはないのではあるまいか? 事実、その通りなのだ。芸術に加わるのは、ごく一部の建築でしかない。それは墓碑と記念碑だ。目的に従事するその他の建築はすべて、芸術の王国から締め出されねばならない。
—アドルフ・ロース「建築について」
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